相続税の税務調査の実施時期と調査を受けやすいケースを解説
相続税の税務調査の実施時期と調査を受けやすいケースを解説
相続税は他の税目とは違い、毎年申告する税金ではないため、申告誤りや計算ミスが発生しやすいです。
また申告書の提出件数に対しての税務調査の実施割合は高い税目であることから、事前の調査対策は不可欠です。
本記事では、相続税の税務調査の実施時期と、調査を受けやすいケースについて解説します。
相続税の申告の6件に1件は調査対象になる
相続税は被相続人(亡くなった人)の死亡を原因として発生する税金ですが、相続が発生した際に申告書を提出することになる割合は9%前後です。
税務調査には調査担当者が自宅に訪れて実施する「実地調査」以外に、税務署に呼び出して申告誤りを指摘する「実地調査以外の調査」、納税者に自主的な申告や申告内容の見直しを促す「行政指導」があります。
法人税の実地調査を受ける確率は3~4%程度なのに対し、相続税の実地調査を受ける確率は8~9%と2倍以上です。
実地調査以外の調査などの簡易な接触による調査についても、実地調査と同程度またはそれ以上の件数が行われており、実地調査の件数と合計すると相続税の申告の6件に1件は、税務署から何かしらの接触を受けている計算です。
相続税の税務調査が実施される時期
法人税は年間を通じて税務調査が実施される税目なのに対し、相続税は調査を実施する時期が偏っています。
相続税の調査シーズンは7月から12月
税務署は7月から6月を1年のサイクル(事務年度)としており、相続税の税務調査は事務年度の上半期(7月~12月)に重点的に実施されます。
相続税は亡くなった日の翌日から10か月以内に申告しなければならず、税務署には相続税の申告書が1年中提出されます。
ただ相続税を担当している資産課税部門は、相続税以外に贈与税や譲渡所得税も担当しているため、1月から3月の確定申告期間中に相続税の調査は基本的に行われません。
近年は4月から6月の時期に相続税の調査が実施されるケースも増えていますが、本格的な調査シーズンは7月から12月の半年間です。
税務調査は申告した翌年・翌々年に実施されやすい
相続税の税務調査は、申告書を提出した直後に実施することは少なく、申告書を提出した翌年または翌々年に行われることが多いです。
相続が発生した時期から踏まえると、被相続人が亡くなってから2~3年後に調査対象となる可能性が高く、相続人の立場からすると相続手続きに関する記憶が薄れてきているタイミングで調査を受けることになります。
一方で、相続税の調査は申告期限から5年間は実施することが認められており、脱税等の悪質なケースの場合には、調査期間が7年に拡大します。
申告期限から3年以上経過した後に調査が行われるケースは少ないですが、法律上は5年間(または7年間)調査を実施できますので油断は禁物です。
相続税の税務調査の流れ
相続税の実地調査は、原則被相続人の自宅で1日かけて行われます。
午前中は被相続人の生前の収入・生活状況に関する質問
相続税の税務調査は、午前中に被相続人の経歴や人となりに関して聴取されます。
相続税は被相続人が蓄積した財産に対して課される税金であるため、収入源や生前の生活状況が大きく関係します。
生前の収入に対して貯蓄が少ない場合には、毎月の生活費の金額を聞かれることもありますし、先代から引き継いだ財産が多い場合、過去の相続税の申告状況も尋ねられることもあります。
午後は相続財産の管理状況の確認
実地調査の午後は、申告書に関係する財産の現物確認が行われます。
通帳の管理状況や保管情報を調べられますし、不動産があれば権利書の保管場所も尋ねられます。
税務署の調査は基本的に任意調査ですが、正当な理由がなければ調査を拒むことはできませんので、調査担当者が必要と判断すれば金庫やタンスの中も調べます。
実地調査を受ける際に注意すべきポイント
相続税の調査で指摘されやすいのが、名義預金の存在です。
名義預金は家族名義の銀行口座に貯めているお金をいい、被相続人が家族名義の口座に預金していた場合、その口座内のお金も相続財産となります。
生前に家族名義の口座を相続人等へ贈与していれば、相続財産には該当しません。
しかし調査担当者は、贈与した事実が確認できなければ贈与を否認することもあるため、生前贈与をする際は贈与契約書など、贈与を行った事実が証明できるものを作成することが望ましいです。
相続税の税務調査を受けやすいケース
次のいずれかのケースに該当する場合、税務調査を受ける確率が高くなります。
遺産総額が1億円を超える
遺産総額が大きい人ほど保有財産は多くなるため、税務調査の対象となりやすくなります。
相続財産の⾦額の構成⽐では土地が3分の1を占めているため、都心部に住んでいた被相続人ほど相続財産が多くなる傾向にあります。
遺産総額が1億円を超えると調査対象になりやすくなりますが、地方の税務署については、遺産総額が1億円未満でも調査対象者として選定することもあるので注意してください。
預貯金の比率が高い
相続財産の金額の構成比で預貯金の比率が高い場合、遺産総額が同程度の他の申告書よりも調査対象を受けやすいです。
相続税の脱税行為で多いのが、預貯金を申告から除外する手口です。
複数の銀行口座を保有している方であれば、一部の銀行口座を申告から除外するケースもありますし、相続開始前に多額の出金を行い、相続開始時点での預金残高が少ないように見せかける手法もあります。
また家族名義で財産を蓄積して申告から除外するケースもありますので、預貯金が多い相続ほど税務署の目は厳しくなります。
税理士が関与していない
相続税の税理士の関与割合は80%を超えますので、相続人が申告書を作成し、提出するケースは少数派です。
相続人だけで申告書を作成しても問題ありませんが、所得税や法人税とは違い相続税の申告書は毎年作成するものではありませんので、相続税を専門としている税理士を除き、相続税の申告書を作ることに慣れている人はほとんどいません。
申告書の作成に不慣れだと計算ミスが起こりやすく、申告漏れの指摘も受けやすい傾向にあります。
相続人のみで作成した申告書の遺産総額が1億円を超えている場合、税務調査を受ける確率は一段と上がりますので、調査を受けることを前提とした対策が必要になります。
まとめ
相続税は故人の財産に対して課される最後の税金であることから、詳細な部分まで調査します。
相続税の性質上、相続人が把握できていない財産が存在する可能性はありますし、財産の種類ごとに評価額を算出しなければなりません。
相続税の申告書を作成するためには知識と多大な労力を要しますので、相続税の申告手続きについては、税理士へ依頼することも検討してください。